時代を視る

2023年8月ニュースレター 時代を視る NO352

2023年8月10日

一般財団法人WIN WIN 代表 赤松良子

夏のさかり

今年の夏も大変な暑さである。早く去って欲しいと多くの人が思っていることだろう。学生は夏休みが終わるのがイヤだから、そうではないのか。遠い昔のことになってしまったが。

夏休みが終わるのがイヤだったのは、小中学校ぐらいまでで、大学時代は、むし暑い大阪を離れて上京し、本郷のキャンパスで、出てきた友人たちに久しぶりに会うのがとても楽しみだったことをよく記憶している。そういう時代もあったのだ。それというのも、大阪の夏は湿度が高いので、東京よりかなり暑くてやりきれなかった。でも私は8月生まれなのだから、夏は嫌いだとは言えない気がする。さぞ大変だっただろうと思って母に申し訳ない気持ちがするからである。さんざん母に苦労をかけたが、「これが不孝のはじめでしょうか?」である。

 

暑がりの父(洋画家)は、アトリエはガラス張りで暑くてたまらないから、少しは涼しい座敷へ寝転んで、パンツ一丁で「暑い、暑い!」と文句ばかり(デパートと映画館以外、冷房なんか無い時代)。勿論、絵なんか描けない。朝夕は、庭に長いホースを持ち出して、植物への水やりに精を出していた。

その父、小学生の私を連れて、避暑に鳥取県と島根県の境にある大山(だいせん)へ旅をしたことがあった。その時描いた川床の絵が今も健在で、私のオフィスの壁に掛けている。戦争はもう始まっていたが、まだ小規模なもの(○○事変とよんでいた)だったから、呑気に避暑もできたのだった。避暑地としては既に軽井沢が有名だったが、私の住んでいた大阪からは遠いので、東京に住むようになるまでは憧れるだけの存在であった。

夏の楽しみは、子供にとってはやっぱり海で、7つ年上の姉が近くの海岸へ連れて行き、泳ぎも教えてくれた。

母に二人分のお小遣いをもらっていて、海辺の店でお弁当を買って、そういう時は仲よく過ごしたと記憶している。大阪の家は南の天王寺区なので海岸へは30分もあれば行けた。あの白砂の海辺、今はすっかり工場地帯になって居り、一度ドライブで行ってがっかりして帰ってきた。

 

今年の夏、旅行の計画もなく、週一回ユニセフのofficeへ出る他は、この暑さでは、外出したくもならないから、読書する他の楽しみがない。そこで読んだ本は(柚木麻子著)「らんたん」だった。500ページ近くの大作で、寝転んで読むには重すぎるため、エアコンの下で、ゆっくり読むのは悪くない。著者は、恵泉女学園(創設者・河井道)の卒業生。母校の創設者とそのシスターを自称した一色ゆりとの協力の物語。

明治、大正、昭和の時代に、日本の女子教育に貢献した津田梅子、広岡浅子、村岡花子などの活躍が生き生きと画かれる。私は津田塾専門学校の卒業生だから、津田先生のことはいろいろ読んでいるが、これまで知らなかった彼女の側面も分かり、興味深かった。あの時代のアメリカの女子大(ブリンマー・カレッジ)のことなど、もっと知りたい気持ちになっている。