時代を視る

2016年9月 ニュースレター 時代を視る Vol.198

2016年9月10日

WIN WIN代表 赤松良子

この夏はリオ・デ・ジャネイロのオリンピックで湧いていた。地球の反対側での大会だというのに・・・。あの町は、ウルグァイ大使をしていた時、日本から、あるいはヨーロッパからの途上、乗り換えの空港だったので何度か降りて、二、三日ホテルで過ごしたことがある。確かに白砂の浜辺は美しかったが、治安が悪いというので、町中を歩き回ることはできなかった。五輪については、スポーツ音痴の私は日本がメダルを沢山とったということ位しか分からず、例年の甲子園(高校)野球にもとんと目がむかなかった。やっぱり「夏は読書」である。それだけでは芸が無いので、今年はがんばって10日間のクルーザに生まれて始めて挑戦しようとしている。世界が平和であることは何とよいことだろう。80歳を過ぎてから目が疲れ易くなったので、沢山は読めないが、でも、自分が乗り移ったような気分になれるヒロインに何人か巡りあえたのは幸せだった。

まず、清少納言! 「むかし・あけぼの(田辺聖子)「はなとゆめ(冲方丁)」随分古い方、と言うなかれ、手練の作家の手にかかれば、千年の時を超えて、彼女の喜びや悲しみがまざまざと蘇り、ヒロインと一緒になって中宮様にあこがれ、藤原道長を憎らしく思うのであった。

次が、山内一豊の妻、「功名が辻(司馬遼太郎)」これまた戦国時代と古いが、全四巻を飽きずに読み切った。幼い時に学校の教科書に出てきた「馬ぞろえ」の話など思い出し乍ら・・・。勿論それは物語のほんの一部で、一豊夫婦の生活を画きつつ、彼らが生きた安土、桃山時代の社会を生き生きとリアルに浮かびあがらせる。封建時代の女性にとっては、夫に功名をあげさせることが唯一の生き甲斐なのだが、そういう時代でも夫よりずっと頭が良く、わけ知りで大局観さえ持っている妻が居たということを司馬遼さんは目に見えるように描いてくれる。彼の作品は「竜馬がいく1~8」「坂の上の雲1~8」「幕末」など結構読んだが、何しろ大変な著書の数だから、まだまだ読みたいものが沢山ある。

ただ、女性を主人公にした小説は、「功名が辻」だけなのだと解説書で読んだので、一寸残念な気がしている。長い日本の歴史に、すばらしい女性はいっぱい居る。あの筆でもっと書いておいて欲しかった。いやいや、死者の齢を数える愚はやめよう。さきの清少納言を書いた田辺聖子氏はまだまだ健在である。「はなとゆめ」の冲方丁氏は1977年生まれとあるから、大いに楽しみにしている。そして、歴史小説ばかりでなく、現代に生きる魅力的な女性をさわやかに書いた小説も読みたい。

そういうものとして愛読していた丸谷才一氏が逝かれたのは寂しいが、今や優れた女性作家は花ざかりである(勿論男性も)。「女には文学は無理だ」といった人が居た、と聞いたら「どこの馬鹿か」と現代の人間は思うだろうが、大昔の話ではない。

「女に数学や物理は無理だ」という人よりは少ないのは喜んでいいのか、疑問に思わないでもない。