
時代を視る
2025年5月ニュースレター 時代を視る
2025年5月15日
一般財団法人WIN WIN 代表 山口 積惠
大阪市の人口島「夢州」で行われる大阪万博(正式名は大阪・関西万博)が4月13日に開幕しました。10月13日までの184日間の実施ですが、万博協会はスタートから13日目で来場者100万人を超えたと発表しました。出足は好調のようで、4月26日から始まった大型連休には、会場に足を運んだ方も多かったのではと思います。
さて、時代を視るという観点から言えば、どうしても避けられないのが、アメリカのトランプ大統領に関しての私論です。正直、日々私たちのもとに届けられるマスメディアのトランプ情報に振り回されている感は否めません。氏が各国に課した相互関税は上げたり下げたり、停止したり・・・。ころころかわる発言に世界中が困惑しているといったら言い過ぎでしょうか。加えて、不法移民の送還、対外援助の削減、政府職員の削減、DEI(多様性、公平性、包摂性)施策の廃止、反ユダヤ・親パレスチナ活動に参加した人たちの取り締まりなどを推し進め、前政権(バイデン氏)のリベラルな政策を真っ向から否定しています。
最近、驚いたニュースは、「ハーバード大学への補助金凍結」です。トランプ氏は、イスラエルのガザ攻撃に抗議する学生デモへの取り締まりを大学側に要求し、同大学が「自治権侵害である」として指示に従わなかったことに対して、「極左の機関」と決めつけ補助金を凍結しました。ハーバード大学は政権の対応は違法だとして提訴していて、当然であると思います。ただ、トランプ氏の教育界への攻撃姿勢も明確です。
トランプ氏は2期目の就任から100日の節目に、ミシガン州で演説を行っていますが、氏が主張する「史上最も成功した100日」の自賛に対して、アメリカの世論は思いのほか冷静でした。世論調査では米国内のトランプ氏の支持率が、徐々に下降しているというのです。米政治サイトの各種世論調査の集計によれば、4月末の支持率は45.3%、不支持は52.4%で不支持が上回っています。1月末の支持(50.5%)・不支持率(44.3%)の数字から逆転しているのですが、やはりトランプ氏がゴリ押しする関税政策を否定的にとらえる人が多いことの現れのようです。氏が大統領に就任してから署名した大統領令は140本だというから、その極端で独善的な姿勢を「常軌を逸している」と評した学者がいるのもうなずけます。
唯一の希望は、写真も公表されたローマ教皇の葬儀に先立って行われた、トランプ大統領とウクライナ・ゼレンスキー大統領の会談(15分間ではありましたが)の進展です。一日も早く、ウクライナに平和が訪れることを願ってやみません。
第十期赤松政経塾・第7回(3/15・国際文化会館)の講師は衆議院議員の阿部とも子さん(立憲民主党)と社会学者の山田昌弘さん(中央大学文学部教授)でした。今回は山田昌弘さんの講演を紹介します。「希望格差社会、それから」がテーマです。
山田さんは、今や日常的に使われている「パラサイトシングル」「格差社会」「婚活」などの名づけ親としても知られています。講演では多くのデーターをもとに、平成・令和の両時代の分析を通じて、どのような局面で格差が生じてきたかなどを詳しく説明してくれました。
「推し活と言うことばがあり、近年は選挙も推し活化しており、好きかどうかが唯一の基準になっています。自分が好きになった候補者が票を集めれば自分の感覚が肯定されたと満足します。候補者がどのような政策をするかは無関係です。これは実はアイドルグループAKBの総選挙と同じ構造なんです。それを後押しするのがSNSの発達で、いいねのボタンを押すことで、目に見えるからです」という説明から始まったのですが、バーチャル文化が今後の格差社会の在り方をも左右する一つの要因であるとして次に進みます。
山田さんは平成時代に起きた負のトレンドとして「少子高齢化」「経済停滞」「男女共同参画の停滞」「格差社会の進行」を指摘し、この4つは相互に関連していると言います。特に格差社会の進行では、正規雇用と非正規雇用との間で収入差が生まれ、先の昭和時代に比べて格差が拡大したと説明。そして令和の時代では、格差がより顕著化していると言います。ところが、リアルな世界では豊かになれず希望が見出せなくても、山田さんに言わせると、現代の若者は「不幸に見えない」と言い、その理由を「バーチャルで格差を埋める時代になっているから」と指摘します。ただ、リアルとバーチャル、それぞれの世界で満足することにとどまれば新たな社会的分断を生み、格差がすすむことで少子化に拍車がかかり、結果的に日本は衰退するとも言います。
これを回避するには「相当な荒療治が必要です」と話し、「日本的雇用慣行と戦後型家族(性別役割分業型)からの脱却が必要」と示唆しました。(理事・甘利てる代)